「ダンケルク」(1) ノーラン監督の「ダンケルク」と旧作「ダンケルク」

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スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」以来の戦場の臨場感・緊張感,銃弾が空気を切る音。

私は通常上映で見ましたが,IMAXだとさらに臨場感は高まったのだろうと思います。

この映画「ダンケルク」は,3つの地上と海上と空で展開される話を交差させて,第二次世界大戦中の1940年にドイツ軍に包囲されたイギリス・フランス軍中心の40万人近い兵士をイギリスへ脱出させた作戦を描いています。

 
http://wwws.warnerbros.co.jp/dunkirk/

 
私はこの映画のテレビCMを見て,1964年のジャン・ポール・ベルモンド主演の同名の映画「ダンケルク」を思い出しました。

原題は“WEEK-END a ZUYDCOOTE(ズイドコートの週末)”。ズイドコートはダンケルク近くの海岸の名です。

クリストファー・ノーラン監督は,この「ダンケルク」に影響を与えた映画として,「西部戦線異状なし」「アルジェの戦い」や,戦争映画ではない「エイリアン」「スピード」など,11本を挙げてロンドンで上映したそうです。

その11本にはこの旧作「ダンケルク」は含まれていません。私が読んだ限りでは,監督はこの作品について言及していないようです。

旧作「ダンケルク」の公開当時のパンフレットには,淀川長治の長文の解説が載っており,映画の最初の方で,主人公のベルモンドがドイツ軍が撒いたビラが降ってくるのを拾って読むシーンが出てくるというのです。

今回の「ダンケルク」も冒頭に同様のシーンがありました。これは一種のオマージュなのかもしれません。

11本には含めていませんが,監督はやはり「プライベート・ライアン」を再び見たそうです。そしてすごい映画だとしながら,今回はそれとは違う方向性で描いたと言っています。

「プライベート・ライアン」では,ライアン二等兵を探すべく,戦場を駆け巡る一人一人の個性を描きます。

しかしこの「ダンケルク」では,どの人物も同じように描かれます。浜辺で助けを待つ主人公は,時に他の兵士と見分けがつかなくなります。

唯一,小船でダンケルクに向かう老船長の人物像は浮き上がりますが,彼とて助けた兵士に息子を殺されても怒るわけでも泣き叫ぶわけでもなく,船の操舵を続けます。

戦争映画につきものの,血や残酷なシーンもほとんどありません。

女性は,救護や看護のための女性がわずかに登場するだけです。

旧作「ダンケルク」ではベルモンドはフランス兵に襲われそうになった女性を助け,恋に落ちます。真珠湾攻撃を描いた「パール・ハーバー」は,戦争が恋愛物語の舞台装置と化していました。

今回の「ダンケルク」では,会話は最小限に抑えられており,全部書き出しても紙1枚に収まるくらいです。

これらのことによって,観客は登場人物には感情移入できません。

監督は戦争の中の人物を描こうとしたのではなく,戦争という事態を描こうとしたのでしょう。

その結果,この映画は非常によくできた戦場体験のアトラクションとなっています。

3つの物語がそれぞれ時間の流れが違うことは,画面に「防波堤:1週間」,「海:1日」,「空:1時間」と明示してくれます。

さらに象徴的なのが全編音楽が流れていることです。緊張感を高める効果をあげています。しかし,現実の戦場には音楽は決して流れていません。

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