「7月4日に生まれて」(1) 27クラブ,誕生日を基準に世界史を勉強する方法

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7月4日アメリカ独立宣言が発表された日です。

主演のトム・クルーズは,もちろんただの偶然ですが,前日の7月3日生まれです。

監督は自身ベトナム戦争に従軍したオリバー・ストーンで,1986年にベトナム戦争を描いた「プラトーン」を発表し,アカデミー賞作品賞を獲りました。この「7月4日に生まれて」でも,アカデミー賞監督賞を獲っています。

「プラトーン」とこの「7月4日に生まれて」,さらに1991年の「ドアーズ」が,1960年代のアメリカ社会を描いた三部作とされています。

念のために,プラトーンとはギリシアの哲学者プラトンとは関係なく,軍隊の編成上の小隊のことです。

また,「ドアーズ」は,1960年代後半から70年代初めに活動したロック・バンド,ドアーズのボーカリストだったジム・モリソンの生涯を描いた作品で,前2作のベトナム戦争とは違う切り口で,当時のアメリカの社会を描いています。

ドアーズは,私の好きなバンドの1つでした。コッポラ監督の「地獄の黙示録」の,ジャングルが炎に包まれる最後のシーンで流れるのが彼らの「ジ・エンド」。暗く重たく長い曲です。

ジム・モリソンは1971年,これも偶然ですが,やはり7月3日にパリで27歳の若さで急死しました。

27歳で亡くなったミュージシャンには,ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ,ジャニス・ジョップリン,ジミ・ヘンドリックス,そしてニルヴァーナのカート・コバーンがいます。また,さかのぼれば,ブルースの神様ロバート・ジョンソンも27歳で亡くなっています。

これらの人々のことを27(トゥエンティセブン)クラブと言うこともあります。

ちなみに,ブライアン・ジョーンズが亡くなったのは,もちろん偶然ですが7月3日です。

さて,映画では,1940年代,まさに先ほど名を並べたようなミュージシャンと同じ世代の,アメリカの地方都市に生まれた少年が,海兵隊に入るのを夢見て,それを実現します。

そして,愛国心に燃えて,共産主義と戦うために,ベトナム戦争に従軍するのです。しかし,現実は想像とはまったく違った混沌とした世界で,無差別にベトナムの農民を殺害し,混乱の中で部下のアメリカ兵まで射殺してしまうのです。

そして自らも負傷して,下半身不随となって帰国します。帰国すると,アメリカでは反戦運動が高まっていました。

弟や過去の友人らがベトナム戦争を否定すると,最初は激しく反発していましたが,やがて男としての機能を失った自分に絶望し,すさんだ生活を送るようになっていきます。

ついに家族にも見放されてメキシコに旅立ちますが,ついに自分が誤って殺してしまった部下の家族のところに行き,真実を伝えます。

やがて反戦運動に身を投じ,1972年のニクソンを大統領候補に選んだ共和党大会に仲間とプラカードを掲げながら乗り込みます。1976年の民主党大会では,本を著して有名になった彼は,多くの人々の前に演説するため車いすを進めるのでした。

さて,7月4日はアメリカ独立宣言の日でした。この日が誕生日の人は,きっとアメリカ独立宣言やアメリカ独立戦争について記憶に残りやすいはずです。

私は8月26日生まれです。1789年の8月26日は,フランス革命人権宣言が採択された日です。

このように,自分の誕生日を基準に勉強してみてはどうでしょうか。自分と関係があるから忘れにくいはずです。

調べてみると,きっとあなたの誕生日にも,歴史的に重要な事件が起こっていますよ。

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「ザ・メッセージ」(2) イスラーム教成立以前,コプト教,偶像崇拝禁止

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映画の冒頭に,後半で出てくるメッカとの停戦の時期に,ビザンツ皇帝ササン朝アレクサンドリアの大司教にメディナから派遣されて使者が改宗を勧める場面が出てきます。

ビザンツ皇帝はギリシア正教で,ササン朝の王はゾロアスター教,もちろんアレクサンドリアの大司教はローマ=カトリックですね。

ビザンツ帝国とササン朝は,ムハンマド以前の6世紀に最盛期を迎えました。ビザンツ帝国はユスティニアヌス1世,ササン朝はホスロー1世のそれぞれ治世でした。

しかし,最盛期は没落の始まりです。両国は激しく戦ったため国力を使い果たして衰退しました。

両国の抗争で,東西の交通路も安全が確保できなくなり,アラビア半島南西部を通る新たな交通路が使われるようになりました。

すると,アラビア半島で遊牧生活を送っていたアラブ人のなかに隊商貿易に従事する人々が現れ,貧富の差拡大したのです。

従来の遊牧生活に基づいた社会規範は通用しなり,新たな社会規範が求められるようになりました。それに答えたのがイスラーム教だったのです。

したがってイスラーム教は単なる内面の信仰だけにとどまらず,豚肉食べるな,酒飲むな,妻は4人までというような生活の細部まで規定しているのです。

この映画には,受験世界史では扱わないエピソードも出てきます。

メッカで弾圧を避けたイスラーム教徒の一部がアビシニアに逃れます。アビシニアはエチオピアで,コプト教が信仰されています。コプト教はキリスト教単性論で,単性論は5世紀半ばにカルケドン宗教会議で異端とされました。

黒人の皇帝は,イスラーム教徒の話を聞き,自分たちの宗教とイスラーム教の共通点を認め,保護を約束するのです。

さらに,砂漠の泉を押さえたことで数の上で圧倒的に有利なメッカの軍を破ったバドルの戦いや,メディナ軍の兵士が持ち場を離れたたため,後方からメッカの騎兵に攻撃されてムハンマドが負傷したウフドの戦いなどが描かれます。

628年には,メッカとの間にフダイビーヤの和議が結ばれて停戦となりました。このとき,周辺の諸国に3人の使者が改宗を求めるために派遣され,それが冒頭の場面に出てきました。

しかし,停戦は破られ,ムハンマドの軍勢は1万を超えるまでになりました。結局メッカは戦わずして降伏したのです。

イスラーム教徒がメッカを占領する場面で,ムハンマドがラクダに乗ってきてカーバ神殿に入り,内部にあった偶像を杖で倒します。

この映画はムハンマドが一切画面に登場しないにもかかわらず,一部のイスラーム教の国では公開できなかったと読んだ記憶があります。このムハンマドの持った杖が映ったのがその原因かもしれません。

イスラーム教徒たちは,その他の偶像を投げ捨て,みんなで破壊します。イスラーム教徒たちは勝利の歓喜に包まれています。

しかし,この場面を見ると,アフガニスタンのターリバーン政権がバーミヤンの大仏を破壊した事件や,イスラーム国がシリアのパルミラなど多くの遺跡を破壊していることを思い出します。

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「ザ・メッセージ」 (1) ムハンマド・イスラーム教

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ムハンマドが神のお告げ,すなわちメッセージを受けてイスラーム教を創始してから,メッカでの弾圧,メッカからメディナへのヒジュラ,そしてメッカ征服までを描く作品です。

おそらくムハンマドの生涯を描く映画は,今のところこれだけではないでしょうか。

第2代正統カリフのウマルの生涯を描くテレビドラマは,サウジアラビアで制作されています。ただ,最近イランでムハンマドの生涯を描く映画が制作されたという話は聞きました。

この映画「ザ・メッセージ」の字幕は,従来の日本での呼称であった「マホメット」になっています。

この映画が公開されたのは1977年で,私の手元にある1976年の世界史の教科書でも「マホメット」と書いてあります。

「マホメット」は英語あたりから来た発音で,もとのアラビア語に近い「ムハンマド」が,最近日本で使われるようになりました。現在は,世界史の教科書でも一般のメディアでも,ほぼ「ムハンマド」です。

でも,歴史上地域によって「メフメト」などのさまざまな言い方があるように,日本には英語経由で「マホメット」という呼称が伝わったということも,また「歴史」なのではないでしょうか。

しかし,考えてみれば現地音に近い「ムハンマド」に変えたということも,やっぱり「歴史」ですね。

「イスラム教」という呼称も事情は同じで,現在,世界史では「イスラーム教」と表記しますが,まだ一般化していないようです。

さらにイスラーム教は単なる宗教ではないとして,「教」はとって「イスラーム」とすべきだとする考えもあります。

「コーラン」も,最近はセンター試験などで「クルアーン」とも表記するようになっています。「メッカ」も「マッカ」と表記することもあります。

さて,この映画の制作はアメリカ・モロッコ・リビア・サウジアラビア・クウェートの合作で,ロケはモロッコとリビアで行われたようです。

黒人奴隷から解放されてイスラーム教徒となったビラールが行う,礼拝の開始を告げる呼びかけ,アザーンはアラビア語ですが,それ以外は全編英語で,イスラーム教の信仰告白「アッラーは偉大なり。ムハンマドは預言者なり」も英語です。

ただし,この映画にはアラビア語版が存在し,アンソニー・クィンなど西欧の俳優は登場しないそうです。アンソニー・クィン演ずるハムザは主役級の扱いでしたから,ストーリーも異なっているのでしょう。

ちなみに,アンソニー・クィンはメキシコ人で,その風貌から「アラビアのロレンス」や「砂漠のライオン」などでアラブ人の役を演じ,「マルコ・ポーロの冒険」ではモンゴル人フビライ・ハン役で出演しています。

映画の最初に字幕で,カイロアズハル大学がこの映画を史実と認めていること,さらにイスラーム教の教義を尊重してムハンマドの姿は画面には現れないことが表示されます。

イスラーム教は映画でも描かれるとおり,偶像崇拝を徹底的に嫌います。アッラーは絶対なので姿を描くことはできません。

またムハンマドは神の言葉を伝える預言者ですが,神ではなくあくまで人間です。

ムハンマドだけではなく,その15歳年長の妻で最初の信者となったハディージャや,従兄弟で第4代の正統カリフとなって暗殺されたアリーも,戦闘場面で名前は出てきますが姿は写りません。

ムハンマドに登場人物が話しかけるときは,カメラに向かって話しかけています。会話もムハンマドの声は聞こえません。主人公が一切登場しない伝記映画なのです。

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