「グレートウォール」(1) 秦の長城と明の長城,ノルマンコンクェスト

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「グレートウォール」は,万里の長城のことです。

http://greatwall-movie.jp/

中国の万里の長城を舞台とした映画で,主演がマット・ディモン,いったいどんな映画だろうと思いますね。

中国とアメリカの資本で作られ,監督が中国,主演俳優がアメリカ,共演の俳優やエキストラは中国・香港・台湾,撮影などのスタッフはハリウッドと,最近の映画産業を象徴するような体制です。ちなみに共演者のなかには,中国のアイドルも複数出演しています。

ところで,最近アメリカでは白人以外の登場人物を白人が演ずることをホワイトウォッシングとして批判する風潮があります。確かに,そういう例は多く,「ゴースト・イン・ザ・シェル」も批判を受けました。

ちょっと古いですが,オードリ・ヘップバーンの「ティファニーで朝食で」で,白人のミッキー・ルーニーがステレオタイプな日本人役を演じたのが例としてよくあげられます。なかにはジョン・ウェインがチンギス・ハンを演じた「征服者」という映画もあります。

この「グレート・ウォール」はヨーロッパで傭兵として暮らしていた人物が,仲間ととともに一攫千金を夢見てヨーロッパにはまだなかった黒色火薬を求めて,万里の長城にたどりつくという物語ですから,設定がいかに荒唐無稽だとしてもホワイトウォッシングには当たらないでしょう。

万里の長城は,始皇帝戦国時代がすでに造っていたものをつなぎ合わせて修築しました。そのときは版築という方法で造られ,北方の騎馬遊牧民であった匈奴に対する防衛のために建設されました。

現在の石造の万里の長城は,ずっとのちの14世紀に成立したの時代のもので,場所は秦のものよりずっと南にあります。

明は,モンゴル人を北方に追いやって建国した漢民族の王朝です。北方に追いやった北元と呼ばれたモンゴル人の国は滅ぼしましたが,その後再びモンゴル人のオイラト韃靼に圧迫され続けました。

一時,明の皇帝の正統帝はオイラトの指導者エセンの捕虜になっています。このように北方の民族に苦しめられたことを北虜と言います。同時期に海上で暴れ回った海賊の倭寇の活動に苦しんだこととと合わせて,北虜南倭ともいいます。

しかし,この映画の時代は,中国の都が汴梁と画面に表示されましたから,開封のことでしょう。したがって代ということになります。

主人公が自分の経験を語るさいに,ハロルド2世の名をあげました。ハロルド2世は,1066年にヘースティングスの戦いに敗れて戦死したイングランド王です。

勝利したウィリアムは,ノルマン朝を建ててウィリアム1世として即位しました。これをノルマンコンクェストといいます。やはり時代的に符合します。

しかし,宋代には北方民族の契丹に現在の北京を含む燕雲十六州を支配されていました。したがって長城が中国と北方民族の最前線ではありませんでした。

この映画では中国の長城が,北方民族に対する防衛のためではなく,無数の饕餮(とうてつ)と呼ばれる怪物が60年ごとに襲ってくるのを防ぐために作られたという設定になっています。したがって,秦でも明でもなく宋という時代が選ばれたのでしょう。

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